磯部先生インタビュー(指揮者:第56回定期演奏会)

第56回演奏会(2025/8/10)には大勢のお客様にご来場いただきました。ありがとうございました!
当日、プログラムに4年ぶりの会報を入れさせていただきました。
会報に載せた磯部先生のインタビュー記事です。

どうぞご覧ください。



八景フィルが磯部省吾先生に指揮をしていただくのは今回が15回目。長いお付き合いの中で、あの手この手で私たちを引っ張り上げ、導いてくださる師匠にお話を聴きました。


◆八景フィルはマイナーな曲を選ぶことも多いですが、今回のプログラムは比較的オーソドックスです。特に注目したいポイントはありますか?

  • まずね、「隠れた名曲」なんてものはあまりないと思っています。名曲ならば自然と有名になるものです。たとえばドヴォルザークの交響曲第7番は、第8番や今回の第9番に比べて演奏機会が少ないですが、それはオーケストレーションが難しいから。メロディーは魅力的でも、全体がまとまりづらいんです。だからそういう曲を演奏する場合には、プロのオーケストラは楽譜に書かれていないことを積極的にやって、軸を作ったりしています。新世界はオーケストレーションがよくできている名曲、だからこそこれほど有名になったっていうことですね。
  • ボロディンのイーゴリ序曲は今回が2回目ですね。前回はコロナ直後で、いろいろな規制もあり、あまり練習ができなかった記憶があります。だから、今回はもう少し丁寧に取り組めたらいいですね。
  • ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番は、知っている曲だからといって簡単ではありません。ピアノとオケの掛け合いと「ゆらし」が難しい。でも、音楽を自然に感じていれば乗りこえられる。演奏するときに楽譜をじっと見すぎると、周りの動きに気づけなくなってしまうんです。だからこそ「部分的に暗譜」が効果的です。全部でなくても、数小節でも覚えておくと、同じところに戻ってこられる。そういう練習をしていくと、かなり違ってくると思いますよ。


◆「新世界」は前にも先生にご指導いただきました。そのときと今で、何か変わったでしょうか?

  • 前回「新世界より」を演奏したとき、あれは確か8~9年前だったと思いますが、かなり苦労しましたよね。でも今は明らかにオーケストラ全体として良くなっています。個人の技術が急に向上することはありませんが、メンバーの「経験値」がしっかり上がっている。それが音楽に表れてきていると思います。一言アドバイスをするだけで、全体がスッと変わる。その瞬間に「ああ、通じたな」と感じることが増えました。でね、団員の経験値は上がってるけど、平均年齢も着実に上がってるよね。だから加齢との闘いでもある(笑)。
  • 今回の「新世界より」が、以前の演奏とまったく違うレベルに達したら、「このオケ、なかなかやるな」と思ってもらえる。今回そんな結果が出せたら嬉しいです。実は皆さん、まだ自分の持っている才能の5%も出していないんですよ。本当はもっと才能があるんです。90%以上のポテンシャルがまだ眠っているということなんですよ。それをあと5%でも出せたらもっともっと良くなるよね。


◆先生は練習の際に毎度必ず「姿勢」や「身体の使い方」の話をされますね。

  • そう。いつも言ってるけど演奏は「姿勢」が大切なんです。姿勢が良くなるだけで、眠っていた才能を発揮できるようになります。実際、椅子に座っているときに姿勢が崩れると、自分で自分の演奏を邪魔している状態になります。だから姿勢を意識することが大事。 姿勢の話でいうと、僕がよく皆さんに「姿勢が大事」と言っているのは、実は自分自身が姿勢が悪いからなんです(笑)。治療の先生に、「あなたは重心が後ろすぎる」と言われたことがあって。言われて立ってみたら、「ここが正しい重心です」と教えられて、自分の中では「え、そんなに前?」って驚いたんですよね。それ以来、意識して重心を変えるようにしてきました。今ではかなり改善されていますよ


◆ところで、八景フィルは何度も先生にご指導いただいていますが、最初の出会いを覚えておられますか?

  • 最初は新潟で飲んでいたときに、桃さん(当時八景フィルの弦楽トレーナーをしてくださっていた井伊桃子先生)から連絡をもらったんです。「八景フィルというオケがあるんだけど、磯部さん振ってもらえないかな」と。それが2006~2007年くらいですね。もうすぐ20年だね。たしか最初の演奏会では「運命」と組曲、あと「モルダウ」をやったんじゃなかったかな?
  • ※第21回は2007年1月28日 スメタナの交響詩「モルダウ」、チャイコフスキー バレエ「眠りの森の美女」より抜粋、ベートーヴェン 交響曲第5番 ハ短調というプログラムでした。先生からこれまでに第21回、第37、39、41、42、44、45、47、48(コロナで中止)、49、50、52、53、55回の合計14回ご指導いただいてきました。そして、今回が15回目です。こんなに長くご指導いただきありがとうございます!


◆印象に残っている演奏はありますか?

  • 最近ではグラズノフはよく頑張ったなと思いました(今年3月の定期演奏会のメイン曲です)。最初はどうなるかと不安でしたが、最終的にしっかりまとまりました。その前のチャイコフスキーの5番も良かったよね。このオケの良いところは、一人一人のスキルというよりも、僕が一言言うだけで「何を言いたいのか」が伝わる人が増えてきたこと。それが無意識レベルで伝わるようになってきていて、全体のレベルが確実に上がっています。


◆では、先生が今後の八景フィルに期待されることはどんなことでしょうか?

  • どのアマチュアオーケストラにも言えることなんですが「50年後にもこのオケがあるか」が一番大事です。そのためには、今いるメンバーがなるべく残りながらも、新しいメンバーをどんどん迎えていかないといけない。いわば「新陳代謝」が必要です。八景フィルはもともと横浜市立大学のOBが中心になってできたオケですが、20年経てば全員20歳年を取る。だからこそ新しい人、若い人を受け入れて、多様性のある団体にしていくことが重要です。僕がかつて立ち上げに関わったオケでも、「3年後にはOBの割合を半分以下にする」と決めていたくらいです。それくらいオーケストラは未来のことを見据えて人を増やしていく必要があります。


◆楽器の種類によっても新陳代謝の難しさはありますね。

  • そうですね。実はオケには「定員」ってものがあるんですよ。たとえば木管が4管編成(フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット各4)、ホルン6本、トロンボーン3本、チューバ1本。これぐらい管楽器がいる編成では弦楽器はファースト14人、セカンド12人、ヴィオラ10人、チェロ10人が必要になる。でも現実はなかなかそこまで特に弦楽器人数がそろわない。それに日本では吹奏楽の影響も大きいよね。吹奏楽連盟と朝日新聞ががんばって、吹奏楽コンクールを盛り上げた結果、音楽の裾野は広がったけれど、管楽器の奏者ばかりが増えてしまった。それに対して弦楽器を部活でやるところは少ないよね。だから管楽器と弦楽器の人数のバランスに問題がある。


◆ところで、先生が指揮者を目指されたきっかけはどんなことだったのですか?

  • 中学のころから指揮者になりたいと思ってましたが、そのきっかけがなかった。でも、高校時代に行った演奏会のチラシに、自分の志望大学のオーケストラの定期演奏会が載っていたの。まだ歴史が浅くて第3回定期演奏会とかだったので、「ここなら好き勝手にできそうだな」と。兄もその大学だったので気楽に入学しました。入ってすぐに、偉そうに(笑)学生指揮者をやりました。楽器はオーボエだったけど学生指揮者やっていたら指揮者が来た時しか吹けなかったね(笑)。
  • 大学卒業後の研究科時代に、自分でオーケストラを組んでベートーヴェンの1番を指揮したのが初の大舞台。1970年代の終わりごろで、当時から対向配置にしていました。


◆アマチュアの指導は難しいですか?

  • 一番やりにくいのは、頭でっかちの評論家タイプがいるとき。でも、八景フィルは素直でとてもやりやすいオケです。オケの指導だけでなく、世の中はすべて教育です。親業も職場の上下関係もそう。何かを伝えるには言葉が必要です。「彼はいい人だけど時間にルーズ」と「彼は時間にルーズだけどいい人」では、同じ内容でも印象が違いますよね。言い方ひとつで受け取り方が変わる。それが教育であり、指揮も同じです。


◆本番で一番大事にされていることはありますか?

  • 平常心で音楽に没頭することかな。構えず、スッと集中することが一番大切です。ただ最近では、70分ノンストップで『白鳥の湖』を演奏したりすると、途中で「お手洗い大丈夫かな…」なんて気になることもあるよ(笑)。


◆あ、やっぱり老化との闘い・・(笑)さて、今回の演奏会でお客様に伝えたいことは?

  • お客さんに「友達を5人連れてきてください。次回と言わず、今回から(笑)」と言いたいですね。会場に入ったら、すぐにでもお知り合いに電話してほしい。大勢で聴いた演奏会の方が、絶対に感動します。


◆ほんとにたくさんのお客さんに入っていただきたいですね(笑)。本番前のゲン担ぎはありますか?

  • あまりないですが、木を「コンコン」と叩きたくなります。ヨーロッパでは「トイトイ」と言って、幸運を祈る意味で木を叩くんです。


◆あ、赤いパンツではないんですね(笑)。先生が「コンコン」されているところを見たことがありませんが、かわいらしいゲン担ぎですね。


磯部先生の言葉の端々には、八景フィルへの深い愛情と、音楽に対する真摯な姿勢がにじみ出ています。
私たちの演奏を通じて先生の熱い想いを皆様のもとにお届けします。

八景フィルハーモニー管弦楽団

八景フィルは横浜市で活動しているアマチュアオーケストラです。

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